風に向かって 壁に向かって

風に向かって書くように。壁に向かって話すように。日記や考え事の中身を書いたり、気に入ったものの紹介をしています。どちらかといえば個人的に。

日曜日の電車

晴れた日曜日の電車のおおらかさ。

いくつものさざめきにひかりが差し、座席にはうっすらと涼しい影がかかる。

子連れのばかどもにも、酒に酔ったごみのような大人たちにも、駅名を唱和するきちがいにも、さるのようにはしゃぐ女の子たちにも。

 みなさん、どちらへ行かれるんですか。

私はレコードと水菓子を買いに行くつもりです。

今日はなにかいいことがあるんでしょうか。

忘れてしまう幸せは、いみの無いことなんでしょうか。

またいつか、お会いできる日があるんでしょうか。

 

いつのまにか景色が流れて、降りる駅が近づいてきました。

みなさん、御機嫌よう。みなさん、それでは。

みんながボールを蹴るのをやめた日

みんながボールを蹴るのをやめた日。

ピカピカとした太陽がすこし穏やかになりました。

いつもより増えたひとりごとが、夏の雲にかわりました。

男の子と女の子が静かに手を繋ぎました。

図書室のカレンダーがうたた寝をはじめました。

 

今日という日は、どうしてこんなにやわらかいんでしょう。

 

世界中のみんながボールを蹴るのをやめた日。

鉄格子の中の人が初めて家族のことを思い出しました。

毛むくじゃらのピアニストが鍵盤にぽーんと指を置きました。

草原のライオンが遠い雨の匂いに気づきました。

少年はラブレターを書く手を止めました。

 

今日はもう、誰もボールを蹴ったりしないのです。

ボールはゆらゆらと揺れています。

ゆらゆら、ゆらゆら、楽しそうに。

太陽がすこし穏やかになった日のことでした。

夜を待つ

夕日が沈む

胸の中で誰かが歌う

夕日が沈む

僕は耳を澄ます

夕日が沈む

かすかな言葉は聴き取れない

夕日が沈む

僕は夜を待つ

夕日が沈む

空の端が曖昧な色に分かれる

夕日が沈む

太陽の行く先をずっと見ている

夕日が沈む

新しい夜がそっと背後に立つ

誰も呼ばないで。

誰も呼ばないで。私の名前を呼ばないで。

少しだけ死んだままでいたいの。

置き去りにされた夜の海みたいに。

結婚式の写真の中で

結婚式場のスクリーン。

馬鹿みたいにピースサインをしている仲間が写っていた。

 今よりも若い僕達。

写真のなかの僕らは、今の僕らよりもずっと友達であるように見える。

 ただそれだけ。

女の子が死ぬ話

誰の心にも、ひとりの死んだ女の子がいる。

十五歳で死んだ女の子。

 

病気なのか事故なのか、それとも自分で死んだのか。理由はひとりひとり違うのだろう。

いつか、突然女の子がひとり死んでいたことに気づく。誰にも看取られずに。

 

彼女の死から何年も経っている。

もう声が思い出せない。

彼女が笑ったこと、泣いたこと。全部大人には分からないことだった。

 

時々彼女のことを思い出す。暖かい薄もやのようなイメージとして。

草原の夕焼け、夕暮れの港、傷ついたレコード。

「綺麗だね。」って彼女の想い出が言う。ささやかな声も立てずに。

「うん。」と僕も返す。なるだけ小さな声で。

 

全ての美しいものは、きっと十五で死んだ女の子のものなんだ。

彼女はずっと十五歳のまま。

僕らの中にはもういない。

 

女の子が死ぬ話 (アクションコミックス)
 

 

もし明日隕石が落ちてきたら

もし明日隕石が落ちてきて、地球が滅ぶとわかったなら最後はどこで過ごそうか。

昔からずっと考えてる。

 

子供の頃はけやき並木。図書館に続く木漏れ日の中。

背が伸びきった頃は弓道場。虫の鳴いてる矢道の芝生。

怠け者だった頃ならサークル棟の部室。楽譜とCDでゴチャゴチャしたあそこ。

 

それから少したった今。この世の何処も思い浮かばなくなった。

でも隕石を待ってる。ずっとずっと。

最後かもしれない朝焼けから顔を背けて。