「人類は衰退しました」の真実。妖精さんが表すもの。
「人類は衰退しました 9」読みました。まさかの最終巻。
科学も都市も学校も貨幣もなくなった未来。
里のみなさんで自給自足の衰退ライフをのんびりやれればそれでいいや、という世界のなか、人類最後の高等教育を受け、もはや存在自体が怪しい国連の職員として働き始める「わたし」。
役職名は「調停官」。
それは人類が衰退すると同時期に増え始めた、不思議パワーとノリの生き物「妖精さん」達と人類のお付き合いを上手くこなすためのお仕事でした。
・・・というのがあらすじ。(貨幣が存在しない世界の「国連職員=非生産職」ってどうやってご飯食べてくんだろう?)
このシリーズ、自分は妙に好きで、普段は見ないアニメまで見てしまう始末。(アニメ面白かった。色味がいいかんじ。)
『楽でクリエイティブな仕事がしたい』、『「職掌の範囲外なので」とかいって仕事サボりたい」』みたいな数々の駄目人間的発言をくりかえす「わたし」が「妖精さん」が起す迷惑騒ぎを解決していきます。
(「わたし」が原因の迷惑騒ぎもかなりある気がするが。)
自分は、「わたし」が地下の科学遺跡を探索する羽目になる話が一番好き。「妖精さん」無しだとフツーに死ぬ作中1,2を争うシビア加減でした。
ちなみに最終巻は今までと違って、妖精さん的なさわぎは在りません。
というか、読み終わっての第1声が
「えっ、この世界、理屈とか細かい世界設定とかがあったの!?」です。
妖精さんの不思議パワーで総て説明するのかと思ってました・・・。
なんかいきなりキチンとしたSF(ファンタジー?)風になってる。
この巻で、衰退世界の歴史、人間さんの存在の真実、そして「妖精さん」とは何か、が明かされます。
いずれも明言されず、仄めかしの域を出ない書き方がにくいのですが、頭の中を整理すると、こういうことになりそう
私達の住む「光のある世界」と別に「光のない世界」があり (怪しい宗教かよ!?)、人類の衰退前、妖精はここから人類を見続けていた。
人類が自力での発展の限界にぶち当たり、衰退を始めたあたりからこの二つの領域の間に境目ができ始め、現実世界自体も、ゆるーい感じに変わっていきました、と。
(たいしてシリアスな世界観ではないので、用語を適当に置換しときました。)
この二つ世界を繋ぐ役目が「調停官」の真髄だったということですね。
お菓子を作って妖精さんにあげるのが本業かと思ってました。
そして、「わたし」みたいに妖精さんをたくさん見られる、仲良くできるような人間はどこの時代にもいて、妖精さんは生きるのが辛い人間のそばにいてくれる存在だった、と。
「わたし」の学生時代、心自閉状態で妖精さんと初コンタクトするエピソードもそういうことだったんですね。
この「妖精さん」ってうちらの住む現実にもいますよね。
つらくて無慈悲なリアルワールドを覆う、ラブ的な何か。
時々、僕らの住んでる世界も似たようなものに覆われてるような気がします。
これになんて名前をつけたらよいのだろう。
ロマン、らぶ、不思議、ファンタジー、美、温かみ、楽しさ、希望、ユーモア、わくわく、言い表せない観念もひっくるめて。
それを感じるとき、人間は世界を素晴らしいと思うんだとしたら。
「妖精さん」って、世界を素晴らしいと感じさせるもの、この名前をつけられない何かのメタファーなんだと思いました。
以上で何年も続いた「人類は衰退しました」本編は終了とのこと。
作者の人、お疲れ様でした。
最終巻で一番好きな場面は 最後の方。
月面で死に打ちのめされた「わたし」に向けて、妖精さんと妖精さんの好物の金平糖を満載して地球から打ち出された貨物が着弾するところです。
金平糖が空から降りそそぐわ、仲間が来るわ。
最終巻たるものこうでなきゃ。